須磨コラム『心臓病』

日本人の主な死因は3つでした。がんと心臓病と脳卒中。ところがここ数年で肺炎が増えて、今は脳卒中を抜きました。だから今は4大死因なんです。一番は『がん』ですが、『がん』はいろいろな臓器ですから、単一臓器では心臓なんです。
心臓は休むことなく動いていて、1日に約10万回動いています。だから、60歳までに20億回以上動き続けるんです。腹筋、腕立てを1万回やれと言われても誰もできませんけども、心臓の筋肉は何十億回も動き続けてくれるんです。

心臓病

一言で心臓病といっても色々あります。
① まず生まれつきの奇形です。心筋の壁に穴が開いているとか、右と左が反対とか、あるべきものがないとか、そういうものを「先天性心疾患」といいます。
「虚血性心疾患」というのは狭心症や心筋梗塞のことです。これが働き盛りの年代の特に男性に多く、大きな問題になっているわけです。
③ 心臓の中には弁があり、これが壊れてくると「弁膜症」といって心不全の原因になります。
「心筋症」というのはいろいろな種類がありますが、心臓の筋肉がへたってしっかりと動けなくなり、筋肉は薄くなって縮む力は弱って心不全になる。ほとんどが心臓移植でしか助けられない病気なんです。ところが移植というのはいつでもだれでも受けられるものではないです。移植ではなく修繕するような手術がバチスタ手術であったり、私の考えたSAVE手術(SUMA手術)であったりするわけで、その手術で多くの人が助かっています。
⑤ 一番よくあるのが「不整脈」です。心房細動や心室細動のような治療をしないといけない不整脈から、期外収縮といって時々ポコッポコッと胸がウッとくるような、これはもう病気とは言わない、心臓のしゃっくりみたいなもので、多くは放っておいていいんです。だから、医者の役割はどういうタイプの不整脈かというのをきちんと見分けて、余計な心配はさせない。でも治さないといけないのはきちんと治すというのが腕の見せどころなんです。
⑥ 最後に、心臓にがんはないんですか?とよく聞かれますが、がんはありません。ですが「悪性の肉腫」というのができます。
こういったもの全部をあわせて『心臓病』といいます。

虚血性心疾患

心臓の血管に動脈硬化がひどくなると、まずは狭心症になります。狭心症と心筋梗塞は全く別の病気ではありません。血管が狭くなって血液の通りは悪くなるけど、まだ詰まっていない状態が狭心症、完全に詰まった状態が心筋梗塞といいます。何が違うのかというと、狭心症ではまだ心臓の筋肉は死んでいない。ところが、心筋梗塞となると、よほど素早く治療しない限りは、詰まった血管より下の筋肉のかなりの範囲が死んでしまうんです。ゴムが伸びきったような状態になって全然縮めなくなる。だから心臓の役目を果たせなくなるわけです。この疑いがあるとまず何をやるかというとカテーテル検査です。血管の中に入れたカテーテルから造影剤を流すと、心臓の血管である冠動脈が見え、狭かったり詰まっているところが分かります。その血管の狭い(詰まっている)箇所にカテーテル治療を行います。カテーテルにつけた風船を膨らませて血管を拡げて、ステント(血管治療用の筒状の金網:最近では薬剤をしみこませたものがよく使用されています)を血管内に残してくる。要するに道路に土砂崩れが起こって通れなくなったときに、土砂をブルドーザーで脇によけるだけではまた崩れてくるから、金網を張って崩れなくするというのがステント治療です。
こういう治療を心筋梗塞になる前に行うことが重要です。

心筋梗塞はスピード勝負

心筋梗塞になってしまったらどうなるかというと、筋肉が死んでしまって、心筋壁が薄くなり、まったく縮めなくなります。冠動脈が筋肉の根元で詰まると、死んだ筋肉の範囲が広いので、最悪は突然死です。血管の下のほうが詰まると、範囲が狭いので、きちんとコントロールすれば普通の日常生活が送れます。
心筋梗塞の治療に関してはスピードが重要です。
心筋梗塞になり → 救急車で病院へ → 病院のドアをくぐり(Door) → カテーテル室へ運び込まれ → 詰まった血管を風船(Balloon)で膨らませ、血液が流れだす。
この一連の流れ(Door to Balloon Time)が90分以内にできたら死亡率が40%減るといわれています。
なので、もし心筋梗塞を起こしたとき、少なくとも30分以内でたどり着ける、腕利きの医師のいる病院を見つけておくことがとっても大事なんです。元気なうちに、心臓がおかしいなと思う前に、そうなったときのための良い病院、良い医師を見つけておく。それからもう一つは、精密な心臓専門ドックを、ある年頃を過ぎたら定期的に受けることも大事なんです。心臓外科医をやっていて何千人も手術しましたけれども「先月心臓ドックを受けて『あなたの心臓は大丈夫ですよ』といわれたばかりなのに」と言っている方が多いです。ということは心臓専門ドックを受けていないんです。
ある一定の年齢を過ぎたら、心臓専門ドックを受けて、きちんと今の自分の状態を見ておくことが大事だというのが私からのメッセージになります。


須磨 久善
心臓外科医/medock総合健診クリニック院長

心臓手術を5000例以上経験し、世界で初めて胃大網動脈を用いた冠動脈バイパス手術を開発し、日本で初めてバチスタ手術を成功させる。その後「改良型バチスタ手術」「SAVE手術」の考案により成功率を飛躍的に高めた。後にSAVE手術は「SUMA手術」とも呼ばれようになる。日本心臓病学会栄誉賞受賞。


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